2011年4月より2012年3月までの1年間、奈良建築士会の会報誌「士會奈良」 の表紙絵に「宿スケッチ」を連載して頂きました。
旅の楽しみの大きな要素に、宿泊するホテルがあります。
ホテルの設計者は客室においては、旅人が身も心も安息できるよう、様々なもてなしをハード面で組み立てて、形にしていると思います。
限られた空間の中での動線計画を始め、内装仕上げ、材の選択、照明計画や空調方法から、寝具・ソファ等の什器、 バスタオルに至るまで、一つのコンセプトの中で、ベストを目指しいわば、居心地の良さの追求がそこにあると考えます。
又、ソフト面では、オーナーやスタッフの心配りが大きな比重を占めます。
この誌面では、今までに私が利用して、ソフト・ハード両面で心地良いと感じた宿を紹介させて頂きます。
『宿スケッチ』に1年間お付合い頂きありがとうございました。
チェックインしてフロントで鍵をもらい、客室へと向かう。部屋のドアを開ける時が緊張の時間です。スケッチするかしないか
部屋に入った時の第一印象で決まるからです。期待通りクオリティの
高い場合、この宿にして良かったと思います。宿スケッチは、基本その現場で採寸からスケッチ彩色まで、全て
完成するまで描きます。昼間は現地の目的の場所で過ごし、外で
夕食をとり、部屋に戻り、それから宿スケッチャーになり、無心に部屋
との格闘が始まります。ラフ平面をおこして、ベッドや造り付けデスクカウンター、ポットや
ミニバー、アメニティグッズに至るまで、形や色を記録します。夜10時頃
から2時間ぐらい集中して行いますので、旅の同伴者がいる場合は、
この作業中はたいてい横でぐっすり眠っています。朝食の様子を、料理と、出来ればスタッフの人達も一緒に描けたら、
完成度はさらに高まります。夕食より朝食のほうがシンプルで、絵に
しても、綺麗な感じがします。空間の記憶の中にその土地の人や
食べ物なども記録したいと思います。インテリアデザインは、必ずしもお金をかけなくても、設計者の頑張
り方次第で、空間は豊かになる事を実感することも多く、またその施設
を運営するスタッフのみなさんの心配りや輝きがその宿の価値をさらに
高めるものと思います。普通のビジネスホテルであっても、すごく居心地
の良いホテルに出会うサプライズがあったりもします。
毎回必ずそれなりのドラマに出会えます。